2016.08.08
プロダクトにこだわり、責任を持つことで初めてエンジニアは幸せになる:CofameCEO 川鍋仁さんとの対談インタビュー
今回は、CofameCEO川鍋仁さんとコデアル株式会社CEO愛宕の対談インタビューです。川鍋さんは、シリコンバレーでお仕事をされているため、今回はSkypeでのインタビューとさせていただきました。
愛宕 まず貴社で取り組まれている事業について教えていただけますでしょうか?
川鍋 Cofameは当時大阪の学生だった二人とと2013年の暮れに立ち上げた会社です。大阪の起業家および予備軍のシリコンバレーツアーを応援していたところで声をかけて始めたのがはじまりです。なので私はCEOですけれども、COOは学生なんですね。年齢差は親子くらいあります笑
最初はこの時代に紙の名刺使ってるのはスマートじゃないしエコでもないと思いつつ、結局いつまでもなくなっていないのがおかしいなと思って、スマホで交換する名刺を作ろうと始めました。
でも実際やってみたら、今はIT系の人たちはアメリカならLinkedIn、日本ならFacebookやLineというようにいくつものSNSを使い分けていて、しかもそれらは名刺よりも重宝していて、若い人たち、特にITリテラシーの高い人たちには名刺はすでに有効活用されていないというのが実際でした。今はむしろ、ネットで検索すると情報が出てくるじゃないですか、例えば愛宕さんと僕が会います、僕が何をするかっていうとGoogleで検索します、もっと知りたいと思ったら FacebookやTwitterの友達やポストを見ますよね。でもそれって以外に時間を費やします。昔の会社のお偉いさんだと秘書の人がいて、まとめたものをミーティングの前にポンと渡されるわけですが、一般人にはない。 ただ、今はGoolgleという情報源がインターネットにあるので、忙しい人達やめんどくさがりやの人たちの秘書さんの仕事を僕達がやってしまおう、というのをCofameでやろうとしています。
愛宕 僕も初対面の時の人と会う前はそういった作業をやっているのですが、それが劇的に短くなるということでしょうか?
川鍋 そのとおりです。将来的にはマシンラーニングを使って、SiriやEchoのようなものに、「愛宕さんってどんな人?」 って尋ねたら「最近結婚されたらしいですよ」とか、「こんなポストをしましたよ」とか、その人の情報が返ってくるようになります。昔なら機械学習に時間がかかって、リアルタイムに出せなかったものが、今は計算スピードも上がってリアルタイムに返せるので、そこを愚直に目指しています。
エンジニアの仕事選択のベクトルはプロダクトへの興味や成熟度が基準になる
川鍋 実は今愛宕さんのやられていることが面白そうだと思っていて、僕からも質問が一つあるのですが。そもそも、エンジニアの人たちは今でも昔の人のようにプログラマがいてSEがいて、下請けをしていてといった形態が仕事の主流なのですか?
愛宕 SIerで三重請けや偽装請負の世界は未だに存在します。ただコデアルを使っている人たちはそういう世界でない場所の人たちです。
川鍋 どこかの会社のなんかのソフトウェアを作らされている人たちは、そこに会社同士のレイヤーができているので、プログラマやって、SEになって、いつかはコンサルタントになって、というつまらないキャリアパスが出来上がるわけです。僕が何十年もかけてやってきたこと、すなわち自分で書いたプログラムが人の目に触れ、使ってもらえることが今の時代の人は今すぐできるのに。
愛宕 なぜ作るかわからないソフトウェアがたくさんありますよね。
川鍋 それはプロダクトが何をするものなのかという真価を決めることを、人に頼っているから起こることです。今後は必ずサービス、プロダクト、プロジェクトがベースになっていくはずなので、誰のためかわからないソフトウェアをいつまでも盲目に作らされている人たちはその流れから外れていってしまうと思います。今後はエンジニアの生き方も変わってきます。会社がプロダクトやサービスに左右されるようになって、数週間レベルでサイクルを回さないとついていけないので、エンジニアが自分で結果に責任を持てるプロダクトの作り方をいつもしなければいけないわけです。そういう機会がどんどん増えてくると、いつかプログラムを書かないエンジニアになるということはエンジニアにはあまり起こらなくなります。つまり、20代で書いているエンジニアは、30になっても40になってもスキルを落としてはいけなくなります。プログラムを書けなくなったエンジニアはもはやエンジニアではなくなって、生きていけなくなります。
とはいえ、スキルは業務エリアによって変わります。立ち上げに必要なエンジニアスキルと、運用の時に必要なエンジニアスキルは異なってくるので、自分がどのエリアでスキルを伸ばしていくのか、考えて生きる必要があります。今後のキャリアパスとしては、どのエリアが自分にとって居心地ががよいかをはっきりさせて、そのスキルをとにかく高めた特化型のエンジニアになることも考えなければいけません。
それはエンジニアでなくても同じですよね。社員が1~20人の社長のスキル、100人の社長のスキル、1000人の社長のスキルは違いますよね。エンジニアも、そういう波にすでに乗っています。例えばGoogleって、何万人という社員がいながら、皆が好きなGoogleのプロダクトって片手で数えられるほどですよね。一つの会社に何十年もいる理由はありますか?それなら乱暴な話、スキルさえあれば、Googleいって、Facebook面白そうだからって Facebookに移って、今はUberだ、っていう人が出てきますよ。ここだったら自分の能力が活かせるであったりとか、このプロダクトや技術が楽しいだとか、プロダクトの成熟度が仕事選択のベクトルにもなります。そのプロダクトの幾分かは、自分に責任がある状態になります。
エンジニアが自立し、プロダクトが一人歩きして初めてエンジニアは幸せになる
愛宕 プロダクトに対する責任、というのはどう言った意味でしょうか?
川鍋 例えばCODEALがうまくいったとしますよね。今の流れだと、社長の愛宕さんがフィーチャーされます。社長という仕事は世の中的に「職業」なんです。同様にエンジニアという職業だってリスペクトされたいわけです。エンジニアがプロダクトに責任を持つようになると、こういうプロダクトを作ってる人なんだとか、あの時のプロジェクトの内容を知りたいだとか、エンジニアも世の中でフィーチャーされるわけです。ハードウェアではそういうことがよく起こっても、ソフトウェアでそういうことがあまり起こっていないのは、そういうソフトウェアが今まではそんなにないということです。
エンジニアがプロダクト基準に動いて、プロダクトに責任を持てるようになると何がすごいかというと、エンジニアという「職業」が世の中に認知され、 評価される仕事になります。わかりやすく言えば、ある有名な建物があって、この建物はあの建築家がデザインしたんですね、となるのは、みんなが建築家の仕事をなんとなく認知しているからなんです。でもプロダクトとエンジニアの人たちには今それがない。今プロダクトの裏側のエンジニアって誰も気にしないわけです。プロダクトに関しても、プロダクトが一人歩きして、このエンジニアが作ったんだね、とならないとエンジニアは幸せにならないです。
僕はコデアルを通じて愛宕さんにエンジニアの地位向上を果たしてもらいたいと思っています。ソフトウェア・エンジニアが日本の社会全般に「尊敬される職業」になるというのが僕の願いでもあります。
だから自分の作っているものが何なのか、という部分にすごいこだわりを持って欲しいわけです。言われたことやってるだけじゃダメなんです。
今どの業界でもソフトウェア化される流れが起こっていますが、ビジネスマンでもエンジニアが何をやっているのかを分かっていない人はディシジョンができなくなります。プログラムのできないビジネスマンに40、50になってからプログラムを教えます、っていうのと、プログラムしかできない30歳にITビジネスを教える、どっちが簡単ですか? という話です。後者は作る人たちの気持ちがわかるわけで、世の中のサービス、つまりはビジネス上の価値も教えればわかってきます。プロダクトを作れる人たちが生きていける世界は業界に囚われずどんどん広がっていくので、エンジニアはもっとプロダクトにこだわりを持って欲しいですね。
ソフトウェアはどこまでも人間ドリブンであり、良いチームに依存する
愛宕 副業やリモートワークについて一言お願いできますでしょうか。
川鍋 プロジェクトベースでしか物事が存在しないとか、リモートワークじゃなきゃだめだとか、通り一辺倒なことは言いたくないですが、メインはプロジェクトでありプロダクトなので、複数プロジェクトに関わり、海外製品にも関わる、ということをやっていると、結局働き方はそこそこリモートになってしまいます。
コーフェイムの話をすると、役員レベルでやっている人でさえ、副業でありリモートワークです。僕はシリコンバレーにいるし、COOは大阪、CTOは東京、プロダクトマネージャはニューヨークにいます。エンジニア部隊はロシアにいますしね。日本の伝統的な働き方の人は、顔を見合わせないとプロダクティビティが上がらないと言いますが、僕はこの働き方を20年やっていて、時差をうまく使えるから24時間回せるのでプロダクティビティは高いと自負しています。
愛宕 僕は一緒にプロジェクトをやった人は会社が変わっても一緒にプロダクトを作れると思います。
川鍋 これはシリコンバレではあたりまえですけれども、エンジニアリングマネージャーは自分のチームの中でできる人を会社が変わっても連れて行きます。会社に何かあったとして、エンジニアリングのトップがどこかに移ると、エンジニアは紐付いて一緒に流れていくことが結構あります。これがIT業界が他と違うところなのですが、チームが有機的に動くとわかっていないと、マネージャーも自信を持てないのです。ソフトウェアも人間ドリブンなので、チームができていないといいものができないです。
愛宕 コデアルという会社も副業を、プロダクトを通じてリクルーティングをしたいと思っています。
川鍋 とはいえもう一つ重要なのは、働いているだけだとすると、機会はありません。機会は自分から探しに行かないとそういうチームに出会えないです。自分で動くことに対してポジティブな人がおそらくいいチーム・いいプロダクトに当たって幸せになっていく、というのが僕の考えです。
競争の激しいエンジニア業界で生き抜くには?
愛宕 インタビューも佳境ですが、今後30年の働き方はどうなるのでしょうか?
川鍋 30年後の働き方って、考えてみてください。僕が50過ぎですから、愛宕さんにとって私の今くらいですよ。当時の僕に今の僕の状況を聞いているようなものです。さすがに全く想像していなかった世界が実際にあります。ただ面白いのは、僕自身の働き方や人間のあり方・ライフスタイルとなると、あまり変わっていないんですよ。
僕のケースだと、単純に、就職した頃はインターネットもないし、スタートアップも流行っていないし、かっこいいサービスもなかったわけです。当時はみんなが知っている日本製のソフトウェアは一太郎、花子くらいしかなくて、ほとんどの製品が海外製で、僕の場合は最初CSK(現SCSK)にいましたが、そこでは自分で日本製のソフトウェアを書いて世界に打って出よう、という気持ちにならないわけです。あの時点では道のりが長くて遠すぎた。世界に通用するソフトウェアを作りたいと思ったら、外に出る必要があったので、Oracleでプログラムを書くことになりました。なのでアメリカにいる人たちと一緒に働くのは普通になっていて、それでイギリスにもアメリカでも働いて、一緒に仕事するのは世界中のエンジニアで、と、今も変わらない働き方が続いています。
ただ、日本にしかいない人だったとしても、英語ができた方がいいという必要性はどんどん高まっていると感じています。外からたくさんサービスが入ってきて、競争がワールドワイドで行われます。エンジニアが今から30年食っていこうと思ったら、ライバルは国内だけじゃないですよ。
愛宕 グローバルな競争という話が出ましたけれども、スタートアップに対して入ってくるお金という観点で、日本のスタートアップの投資を受ける金額で本当にグローバルな勝負に太刀打ちできるのか?ということに対して、私の中では答えが見つかっていません。今シリコンバレーにいらっしゃる川鍋さんに何かお考えがあればぜひお聞きしたいのですけれども。
川鍋 正直言うと答えのようなものはないです。笑
モノを作って使ってもらうというのは、対象のユーザーによって変わります。ターゲットユーザーによって必要な投資額も変わるわけで、それが小さくてもいいのであれば、本来、小さい投資額でもいいことがありえるわけです。ところが、みんなが考えるメイントピック、今の日本であればフィンテックのようなものについては、競争が激しい分お金のあった人が有利な部分が出てきます。ターゲットユーザが誰かということよりも、マーケットがホットだからお金を入れて早くマーケットシェアを取りに行く、という考えですね。ことスタートアップという意味では、シリコンバレーでは後者の考え方が投資する方も含めて主流なので、コンセンサスのとれている中で動く金額は大きくはなります。日本のスタートアップがグローバルでやるには投資額が少ないと愛宕さんがいうのは、僕としてはちょっと違っていて、ある程度国内でやってからグローバルに出ていく方針の会社が多いから、投資額もそれに見合っているのではないでしょうか?最初から本気でグローバルにやっていきます、といって本当にできると投資家に思ってもらえるのなら、それに見合った金額を提示して断られるのはおかしな話です。そこには何らかの大きな金額が動かない理由があるんだと思います。
話を戻しますが、世の中的にはソフトウェア業界っていうのは比較的先進的で、日本だったとしても競争や入れ替わりが激しい業界です。転職する人も多いし、自分で自分を使えなくなったと勝手に判断して職種を変える人も多分たくさんいるんでしょう。ただ私の考えで言えば、誰もポンコツになる必要はなくて、その経験をプロダクトにずーっと生かしていければいいんです。Product- Orientedに生きる方がエンジニアは楽しいと思います。
自分でリードし未来を作っていかなければならない。未来をつくるということはプロダクトをつくるということ。
愛宕 ところで、川鍋さんが特に好きなプロダクトはありますか?
川鍋 それは色つけちゃうようで嫌ですけど、多用するのはメッセンジャーですね。世界中どこでもコミュニケーションできることが重要なので、結果としてありとあらゆるメッセンジャーを使うはめになります。最近すごいなと思うのは、メッセンジャーはすっかりエンジニア離れしているというところです。Slackを考えると良い例ですが、プロダクト作る人のプロダクティビティを上げるためのコミュニケーションツールですが、今はそこそこ一般の人にも使われていますよね。そういう意味ではメッセンジャーたちには今後もしばらく注目していきます。むしろメールより大事だと思っています。Bot が攻めてくるともっと面白いことになります。数年後のメッセーンジャーの会話の相手は人間じゃない方が多いかも知れないです。
これとは別に、Google MapやUberなどのインフラ系も、Spotifyなんかももはや誰でもつかいますよね。ポイントはCtoBで、会社の中で使うツールは一番いいツールではなくて、全部自身のモバイルの中に入っています。20年前は会社の与えてくれるツールはそれがなければ仕事のできない世界最高のものだったわけですが、今は学生の時から自分の一番使い易いものをモバイルの中に入れているので、そんな人が大会社に入るとショッキングです。プロダクティビティが劇的に落ちます。そんな感じですから、コンシューマープロダクトを知らずに、ビジネスツールの将来を語れないです。Bはお金になるし大切なんですけれど、今の時代BはCの後できます。これも30年前なら考えられないですよね。
愛宕 もしかしたら僕が30年後に川鍋さんくらいの年になって、インタビューされてたとしたらこれだけ変わっているんだよっていうのを言ってそうですよね。変わり続けないとそれには乗っかれないですよね。
川鍋 ついていく気が無ければ乗っかれない、でも付いていくだけなのも面白くないよね、やっぱりリードしなきゃいけない。
愛宕 僕もアラン・ケイの言葉大好きですけど、未来を予測する最善の方法は未来をつくることだ、っていう。そして未来をつくるっていうことはプロダクトをつくるということということですよね。またぜひ川鍋さんとプロダクトを創ることについてお話しさせていただきたいです。