今回はイタンジ株式会社CTOの横澤佑輔さんとコデアル株式会社CEO愛宕の対談インタビューです。
愛宕 はじめにイタンジではどのようなことをやられているのかお聞きしてもよろしいでしょうか?
横澤 イタンジは不動産領域に根ざしたテックベンチャーです。コア事業としては3つのプロダクトをやっており、toC向けに、nomadというオンラインの仲介サービス、toB向けにノマドクラウドと物確君という不動産会社向けの業務サービスを販売しています。また、ノンコア事業としてはVALUEという売買物件の投資分析をするサービスもやっています。
強烈なボトムアップの会社
愛宕 今何名でやられていて、どのような体制なのでしょうか。
横澤 目下12名です。基本的には形式ばった組織体制というものはなくて、役割に合わせて流動的にやっています。現在メインの事業はメンバーが自ら立ち上げた事もあり。メンバー自らがプロダクトオーナーをやっています。それ以外のメンバーについても自分のスキルとプロダクトが必要としている課題を結びつけて役割を設定しています。強烈なボトムアップ体制です。
イタンジにはGoogleの20%ルールに似たような制度がありまして、誰でも新規事業を提案する事が出来ます。ただし、3か月で売り上げ100万円を達成しなければいけない、等の撤退要件はあります。物確君が立ち上がった時も、当初は役員全員が「ダメじゃないか?」と思ったのですけれども、ルールである以上は無理やり止める事が出来ず事業がスタートしました、今では多くの売り上げを作りメイン事業まで進化しています。
一般的なスタートアップですとCEO=プロダクトという事業構造で、そこに全メンバーのリソースをかけて一点突破する戦い方が多いと思いますが、不動産市場ではその戦い方が難しいと思っています。不動産市場がIT化が遅れている代表的な業界ではありますが、市場規模は非常に大きく業界のプレイヤーが余り困ってない事もあって、課題がそこまで顕在化していません。そういう市場では一点突破の戦い方ではなく、テクノロジーの入り込む余地を見つけて丁寧にプロダクトを提供していき、最終的には大きな市場を取るボトムアップな戦い方が必要だと考えています。そういった市場の特性も踏まえて組織設計もボトムアップにしています。市場の特性も考えて一般的なスタートアップに比べるとよりロングスパンで計画を立てているのが特徴的な組織体制に反映されていると思います。しかし全部が全部このような始まり方ではなく、nomadなんかで言えばCEOのトップダウンによって中長期的に始まった事業もあります。
愛宕 新規事業が立ち上がった後、開発はどのように進むのでしょうか。
横澤 起案者がエンジニアであればそのまま一人きりで進める事もありますし、セールスメンバーからであればエンジニアを口説いてチームを作ります。どちらにせよイタンジのメンバーを通じて特徴的なのはいきなり作り出す前にユーザーヒアリング等を行ってニーズを確かめるところから始めるのが特徴的です。まずはニーズをヒアリングしてミニマムな製品を作り、リレーションのある不動産会社に試用してもらうことで、プロダクトのPDCAをどんどん回してプロダクトの質を高めていきます。以前はプロダクトアウトな感じで、最初から全ての機能を作りこんでから営業に回るという流れだったのですが、労力をかけたのに現場では全く使われなかったという経験と反省がありまして、今はこのような進め方になっています。
愛宕 nomadのように中長期的な考え方でやっているものに関しては考え方が違うのでしょうか?
横澤 toCとtoBのプロダクトで変わるとおもっています。toBはリーンスタートアップ的な方法論がよくハマると思いますが、nomadのようなtoC向けプロダクトはtoBプロダクトに比べると経済合理性だけ考えてもうまくは行かないので、リーンスタートアップ的な方法論と、先にある程度提供価値を決めて作ってしまう2通りの方法論をミックスさせる必要があると思っています。未だ見ぬ提供したい価値があるのならば、最初にある程度作ってしまってもいいと思っています。事業の位置づけによって変わってきますね。
複数のプロダクトを抱えた会社を一つのプロダクトと捉えてグロースする
愛宕 次に横澤さんのキャリアについて教えてください。
横澤 最初はSIerでしたので、事業やプロダクトを作るという考えとは無縁でした。次第に自分でプロダクトを作りたいと考え、転職して事業責任者になって企画・開発・営業をするようになりました。その時にはコードを書くだけではなくて、プロダクトを売ることについても学べたと思います。SIerでも営業のようなことはやりますけれど、自分で作ったプロダクトを売るというのは全然違う話しで、100アポとって1個も売れなかったりと、厳しい市場の反応にも直面しました。その後別の会社で開発部門のマネージャーを経て、今の仕事をやっています。
愛宕 それぞれの立場の経験をしてきて、自分の向いている役割に気づいたことはありませんか?
横澤 良くも悪くも移り気で、他のプロダクトに目移りしてしまうので、わかりやすい一つのプロダクトをやり続ける事はあまり向いていないと感じています。ですので、一つのプロダクトではなく、複数のプロダクト群を持っている会社を一つのプロダクトと考えてグロースさせるのが向いているのかと考えています。
愛宕 僕は今の会社で4つのプロダクトをやっていたのを、CODEAL(コデアル)1つに絞りこみをかけた経緯があります笑 プロダクトを創出できる組織を一つのプロダクトと捉えたいという点に関しては強く共感します。弊社もそうなりたいな。。。
コードを書けることは偉大である
愛宕 今30代だと思いますが、20代の時に考えていたことが30代になって変わってきたことはありますか?
横澤 今まで数千・数万の規模の会社にいて、イタンジに来たら数人ですから、見える景色が変わるのは勿論、相対的に自分の行動範囲・影響範囲が多くなりました。会社が上にいた状態から、自分が会社の上にいる感覚になったと感じています。
愛宕 それぞれいいところ、悪いところはありますか?
横澤 大きい会社はやはり予算も潤沢で優秀な人も沢山いるので、大きなことをできるのはいいですね。逆に自分の好き勝手にはできないのは悪いところです。小さいところはまったく逆で、会社や製品を自分ごとにしてやれるので、そういう事が好きな人にとっては、とてもいい環境だと思います。会社や製品を自分ごとにするというのが一番のワークライフバランス!という人にはピッタリだと思っています。もちろんお金がないので、そこは工夫しなければいけないですけど。
結局は、とんでもない大きな製品をつくるうちの一人になるのか、まずはニッチだとしても自分の考えた製品に人生を賭けるか、どちらが好きなのかという話だと思いますし、どちらも良い選択だと思います。
愛宕 最近では大きな会社がスタートアップを買収していく流れも増えてきていますよね。両方経験してみて少し違う世界観を行き来するのもいいかもしれませんね。
横澤 昔は大きな企業と小さな企業の溝は大きかったですけれども、今はテクノロジーがその溝を埋めている気がします。テクノロジーの文脈では文系理系という溝も小さいと思います。コードをかけることはすごく偉大なことなので、コードを書ける人は自分が力を持っていることを意識してその能力を大事にして欲しいですね。